引越しのアルバイト

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引越業は季節商売?

引越業は季節商売と言っていい

繁忙期と閑散期の差がとても激しいのだ。筆者の知る中堅引越業者は年間の売り上げの半分を、2月後半から4月までの繁忙期に稼いでいた。

スキー場や海水浴場とは本質が違うが、季節に左右される点と、その季節がある程度限定されるという点で、季節商売に限りなく近い。

季節商売において難しいのは人手の確保である。

通年人手を必要としない場合、その増減の部分を補うのは当然のようにアルバイトという働き手たちになる。

忙しくなるのが予想される時期に人出を集め、時期が終われば辞めてもらう。

アルバイトという雇用形態は初めから期間を切って募集できる点が実に有難いのだ。

筋のいいアルバイターには個別にスカウトを掛け、正社員に繰り上げることも可能だ。

引っ越し業者たちは言わば試用期間という感覚で彼らの仕事っぷりを見ている。

アルバイトの短い期間でも引越業に向いているか否かを判断するのは容易だ。

正社員にもなれる

作業を共にしていると彼らの中にキラリと光るものを見つけることがある。
光る部分にはいろんなタイプがあるだろうが、大きく見て寡黙に働くガテン系と、妙に客受けのいい営業系に分かれる。

体力的にも精神的にも弱い子は早い段階で辞めてしまう。辞めてしまうといっても雇用する側も同意の上だ。

使えない人材を抱えておけるほど景気のいい商売ではない。

学生の引っ越しのアルバイト

アルバイトの中にも様々な人間がいる。

まず思いつくのは学生だろう。

引越業者にとって有難いのは、繁忙期の期間が学生の休みとぴったり一致する点にある。

春休みを前にすると求人誌の誌面は引越業者の求人広告で溢れる。

うまくすればその人材は夏休みまで引っ張ることもできるのだ。

閑散期は学業に戻っていただけばいい。

学生アルバイトに望めない点は社員登用の部分にある。

引越業に慣れ、直接客から礼を言われるこの仕事に魅力を感じてくれることもあるにはあるのだが、たいていは学校の卒業と共にアルバイトも辞めてしまう。

引っ越し先への移動中、トラックの助手席に座るアルバイト学生から「就職が決まりました」なんて言われることも少なくない。

「また人探しか」というこちらの心情とは裏腹に、将来を見つめた真っ直ぐな眼差しを見ると「おめでとう」と声をかけずにはいられない。

使える?人材派遣

学生で多いもう一つの形が人材派遣だ。

これは急ぎで人を集めなければならない時の保険といっていいだろう。

費用も高くつく上、当たり外れが大きい。

朝、来てもらって、昼にはもう使えなくなってしまうような子も平気で派遣してくる。

たまに当たっても契約上引き抜くこともできない。

もともと作業チームのメンバーは人材派遣から来るアルバイトには初めから多くを期待していない。

人材派遣の子は客に見せるための人材と割り切っているのが 実情だ。

客だけはその子を作業スタッフの一人と数えてくれる。

「見積りどおり4人で来ました」とだけ言っておけば一応形になるのだ。

いずれにせよ、学生のアルバイトは昔に比べればかなり減った。

その要因はたくさんあるのだろうが、単にそういう時代だということにしておく。

これを言い出すと引越業の範疇には収まらないだろう。

稼ぎ頭、フリーター

実際のアルバイトスタッフとして圧倒的に多いのはフリーターだ。

彼らの中には引越業者だけを渡り歩いているような専門的フリーターも多く存在する。

彼らは引越作業の経験が豊富で即戦力になる。 以前に所属していた引越業者のやり方をこちらが教えられるようなことも多い。

彼らを通年雇用できるくらい仕事を取ってくれば実作業の点において何の心配も要らなくなる。

そのためだけに安い仕事を請けることもあるくらいだ。

全体的な引越料金の値崩れが起きている要因の一つに人材の確保が困難になってきたことも挙げなければならないだろう。

安い仕事を請けてでも、アルバイトを雇い続けたいのだ。

雇用する側の内情は大凡こんな感じだ。

スタッフの入れ替わりが多く、流動的人材が多いのもこの業界の特徴かもしれない。

働く側から見た引越しのアルバイト

では、働く側から見た引越業はどうか。

はっきり言って賃金は安い。

朝8時から、夜8時まで働いても日給が1万円を超えることはほとんど無いだろう。もちろん引越業者で違いはあるが。

だがもし、日給が1万円を超える引越業者で働けているなら、それは働き手にとってかなり良い条件だ。

仮に定時を8時から17時とするならば、労働時間は8時間。

それに時給900円を掛けた7200円が日給になる。

引っ越しが押して夜8時に終わったとしても、3時間の残業が付いて9,900円。

これが引越しのアルバイトの実情だ。

朝から馬車馬のように働いてこの賃金である。

同じ時間ファストフードで働いても結果は同じ7200円。

だとすれば、あの疲労感は賃金には見合わないかもしれない。

なぜ、きつい引っ越しのアルバイトを選ぶのか?

では、なぜ彼らはアルバイトとして引越し業を選ぶのか。

一つは客からもらえるチップが挙げられるだろう。

心づけと呼ばれるものだ。

しかし、これは時給とは違って、貰えない時は貰えない。

貰えるときは少なくて1000円。

多いときは1万円にも達する。

新築への引越しの場合、もらえる頻度は高くなる。

いずれにしても運なので、収入の一部に当て込むような要素ではない。

彼らが引越業のアルバイトを選ぶ最大の要因は、「達成感」だろう。

通常、時間で区切られることが多いアルバイトという形態では、なかなか得られないものが「達成感」なのだ。

ファストフード店やコンビニでは時間で勤務が終わる。

しかし、自分の勤務が終わった後も店の営業は続いている。

自分の勤務の終わりは、誰かの勤務の始まりなのだ。

比べて、引越しは1件1件に終わりがある。

どんなに荷物の多いお宅でも、黙々と運び続けていれば必ず終わりが来る。

大変な現場であればあるほど、時間の経過を忘れて作業に当たれる。

黙々と働いて、気がつけば終わっている。

最後は客に「ありがとう」とまで言われるのだ。

また、引越し業の場合、この達成感は一日の仕事終わりに感じるものとは限らない。

この達成感は引越し物件1件1件で確実に感じられるのだ。

そして、それをチームの仲間と共有できる。

この感覚はスポーツで得られる感覚に似ている。

もっと挙げるなら、登山の感覚に似ている。

仲間と力を合わせ、弱いメンバーをカバーしながら、息を切らして到達した山頂は、なんと清々しいことか。

山頂で感じる「達成感」は、引越業に全く携わったことの無い人間にも想像に難くないだろう。

ありがたい事に大抵の場合、引越し先はきれいだ。

山頂とまではいかないまでも、それなりに心地いい。

この感覚は同じガテン系のアルバイトでもなかなか感じられるものではない。

道路工事でも建築系でも、一つの物件に数日から数ヶ月はかかる。

ガテン形の中でも、最も短いスパンで達成感を味わえるのが引越しだ。

引越しのアルバイトには独特の魅力があるのだ。